がん相談

メラトニン療法

メラトニンは、ビタミンE、コエンザイムQ10よりも安価で強力な抗酸化ホルモンです。

Melatonin:Advanced sleep, Anti-dementia & Anti-cancer.と言われるようにその作用は多彩です。

メラトニンはトリプトファン(アミノ酸)からセロトニンを経て体内で合成されるホルモンです。抗酸化作用、神経保護作用により認知症の予防治療、がんの予防、がんの進行抑制、眼圧降下作用、概日リズム調整作用が報告されています。メラトニンはその強力な抗酸化作用から癌抑制効果への期待が高まっています。また、メラトニンは分子量が小さく容易に脳血管の関門(BBB)を通過し脳内に入ることができるため、悪性脳腫瘍に対する治療効果、およびその神経保護作用から認知症や神経変性疾患に対する治療効果への期待が高まっています。飲み方は就寝60~90分前の内服が推進されています。

私は医薬品としてメラトニンを使用したいので厚生労働省に申請し薬監証明をもらい、専門業者から医療用サプリのメラトニンを処方しています。メラトニンは一日最大40㎎処方していますが、今のところ副作用は経験していません。なお、最近のメラトニン情報については、こちらをご覧ください。

 

メラトニンはノーベル賞を受賞した低酸素誘導因子HIF-1の発生を阻害します。

がん細胞がヒトの免疫細胞(キラーT細胞、ナチュラルT細胞)の攻撃をかわして増大する仕組みの解明が進んでいます。がん細胞は主に酸素を使わない解糖系でブドウ糖を燃やしエネルギーを産出します。ヒトの免疫細胞は一部解糖系を使いますが、90%以上はミトコンドリアで酸素を使った酸化的リン酸化によってATPというハイオクガソリンを産生しエネルギー源としています。がん細胞は低酸素誘導因子HIF-1を産生し、ミトコンドリア内におけるハイオクガソリンATPの産生を妨害します。この仕組みは3人の教授(セメンザ、ケーリン、ラトクリフ)によって解明され、2019年のノーベル生理学・医学賞が授与されました。最強の抗酸化物質メラトニンは、がん細胞の低酸素誘導因子HIF-1に拮抗的に作用するとの研究が進んでいます。

 

 

(図)日経サイエンス. 2019年ノーベル生理学・医学賞:細胞の低酸素応答の仕組みの解明で米英の3氏に.より

 

メラトニンとHIF-1に関する研究を検索すると15本の論文がベストマッチします。細胞実験ではメラトニンは低濃度では効果がなく高濃度(高用量)でHIF-1発現を抑制します。最新でよくまとまっているのは、

・Int J Mol Soi.2021 Jan 14:22(2):764.doi: 10.3390/ijms22020764. Anti-Warburg Effect of Melatonin:A Proposed Mechanism to Explain its Inhibition of Multiple Diseases.   Reiter RJ(1)他

・Biochim Biophys Acta.2016 Apr;1865(2):176-83.doi: 10.1016/j.bbcan.2016.02.004.Epub 2016 Feb 17.Melatonin and the von Hippel-Lindau/HIF-1 oxygen sensing mechanism:A review.   Reiter RJ(2)他

・IUBMB Life.2020 Nov;72(11):2355-2365.doi: 10.1002/iub.2384.Epub 2020 Sep 12. Melatonin as a potential inhibitor of kidney cancer:A survey of the molecular processes.  Reiter RJ(2)他

メラトニンはがんに効くのか →疫学的には効いています。

 

がんの 進行・転移に対する作用

メラトニンはがんの進行や成長を抑制するという疫学的、実験的、臨床的な研究報告は当惑するほど莫大にあります。特に疫学的研究報告は意味があります。疫学とはがんに罹患した人たちの集団に対するメラトニン効果を追跡調査したものです。メラトニンとがんの研究で明らかになったエビデンスは、エストロゲン依存性乳がんを抑えるインドールアミンに関するものが有名です。最近の多くの研究、2017年米国、2017年中国、2019年中国・スペインなどから、がんに対するメラトニンの特徴的な作用は、抗がん剤やがん毒素からヒトの正常細胞に対する保護作用、肝毒性の軽減作用、転移の抑制作用であることが発表されています。メラトニンの化学療法や放射線療法の副作用を軽減し治療効果を強化するがん治療の補助療法としての多くの研究から、米国の研究者は、患者の身体的なウェルビーイング(良好な状態)を改善するために、従来の抗がん治療とメラトニンの併用を積極的に勧めています。しかしメラトニンの実験的知見の数々は、患者のウェルビーイングの改善だけでなく、それを遥かにしのぐ効果を示唆しています。予防には1~3mg/日、進行・転移には10~30mg/日が処方されています。フランス政府は2018年4月、メラトニンは炎症促進性作用と免疫活性作用があるため炎症性疾患、自己免疫疾患に罹患している人は内服しないよう警告しています。

メラトニン輸入のための薬監証明書類には『最近の研究では、免疫担当細胞を賦活し、がん細胞にアポトーシスを融合し、活性酸素を補足するなど…幅広い作用が報告されている』と記載されています。また、医師による治療のための輸入に門戸が開かれていることは、厚生労働省もメラトニンのがんに対する薬効を評価しているものと思います。

メラトニンの分泌は男女ともに更年期から激減し60歳代で分泌を停止します。がん発症年齢といわれている60歳代からは、メラトニン服用の効果が期待できます。なお、メラトニンには性抑制作用がありますのでパートナーがおられる方はお互いマナーとして単なる予防には生理学的活性の範囲で1mg、せいぜい3mg内服をお勧めします。特に性ホルモン依存性の乳がん、前立腺がんなどの予防・進行・転移を抑制する効果に期待が寄せられており、海外では50㎎以上の高用量が用いられていますが病状、体調により医師にご相談下さい。

進行がん、見放されがんに対してはどうでしょうか。私は米国人と日本人の体重差からメラトニン内服量を日に30mg前後が妥当な量と考えています。

メラトニンは時に悪夢や睡眠障害などありますが、全体的に見て副作用は少ないです。メラトニンは60歳~65歳で分泌停止します。

 

【参考文献】

Li Y, Li S, Zhou Y, et al. Melatonin for the prevention and treatment of cancer. Oncotarget. 2017 Jun 13;8(24):39896-39921.

Reiter RJ, Rosales-Corral SA, Tan DX, et al. Melatonin, a Full Service Anti-Cancer Agent: Inhibition of Initiation, Progression and Metastasis. Int J Mol Sci. 2017 Apr 17;18(4).

Zhang L, He Y, Wu X, et al. Melatonin and (-)-Epigallocatechin-3-Gallate: Partners in Fighting Cancer. Cells. 2019 Jul 19;8(7).

Menéndez-Menéndez J, Hermida-Prado F, Granda-Díaz R, et al. Deciphering the Molecular Basis of Melatonin Protective Effects on Breast Cells Treated with Doxorubicin: TWIST1 a Transcription Factor Involved in EMT and Metastasis, a Novel Target of Melatonin.Cancers (Basel). 2019 Jul 19;11(7).

 

国が大衆薬として認めない様々な理由

米国では多種類メラトニン製品が発売され多くの人が服用していますが、メラトニン含有量に数倍の差があったり、メラトニン含有ゼロだったり、他の成分セロトニンが含まれていたり不純物など品質管理の問題が指摘されています。特に不純物として狂牛病のプリオン混入の危険性が指摘されています。米国薬局方協会USP(U.S.Pharmacopeial Covention)はUSP検証済マークの付いたメラトニンの購入を勧めています。アメリカ睡眠学会はつい最近2020年、睡眠に関しては効果不詳のため治療薬として使用しないことを推奨するとしています。その一方で日本の厚労省はメラトベルという商品名で小児の神経発達症に伴う入眠困難治療薬としてメラトニン顆粒を承認し、2020年6月から処方可能となりました。メラトニンには二次性徴抑制作用、女性の場合は初潮を遅らせる作用があるため、フランスでは13歳児までの使用は制限しています。今回発売になったメラトベルも初潮年齢の女性には慎重処方が求められます。その他、炎症促進性作用、免疫活性化作用などがあるため炎症性疾患、自己免疫疾患に罹患している人は内服しないよう注意が必要です。

メラトニンは国際宇宙ステーション実験棟「きぼう」において破骨細胞の抑制作用が認められています。閉経後の骨粗鬆症の進行と認知症の進行を抑制するなど一段とアンチエイジング効果に期待が集まっています。しかし安易にメラトニンを購入し安易に内服することは不純物等の問題が大きいということです。私自身認知症と進行がんの補助療法にメラトニンを処方しています。特に抗酸化作用についてはメラトニンそのものの抗酸化作用だけでなくメラトニンはMT1、MT2受容体に作用することでスーパーオキサイドジスムターゼ、カタラーゼ、グルタチオンペルオキシダーゼなどの抗酸化酵素の発現が活性化し増加することが注目されています。メラトニンは年齢と共に分泌量が低下します。

メラトニン内服量/日の目安

  内服量 期待しうる作用 副作用
低用量  0.5~1㎎ 生理活性 なし
中用量 3~5㎎

抗酸化作用

網膜メラトニン受容体活性化による

眼圧低下作用

耳鳴り改善作用

ほぼなし
高用量 5~10㎎

強い抗酸化作用、神経保護作用

認知症夜間周辺症状の改善

レム睡眠行動障害改善作用

まれに日中眠気、倦怠感

まれに体温低下

メガドーズ

大用量

30~100㎎

強い抗酸化作用

悪性脳腫瘍

がん

特に夜勤者に多い乳がんに有効

抗認知作用

SCI、MCI、アルツハイマー病初期

パーキンソン認知症初期

高い容認性を示す

時に夜間~日中に及ぶ体温低下

対策として週1回投与法あり

まれに肝障害、腎障害

これらのメラトニン作用に対する研究論文は多数あり、私の能力では論文の取捨選択は難しい。興味のある方はPubMedで検索下さい。